見たものを思い出しながら書く
見たものを思い出しながら書く。今回の27時間テレビですごかったところ。特に何も参照せず書くので、実際と異なる点があるだろうが、気にしない。
はじまりは、さんまから。たけしに愛車をぼこぼこにされた昔のVTRを、みんなでわいわいと見ていた。そこへ、予定調和的に挿入される中継。たけしだ。
ペイントアートの第一人者、という触れ込みで映し出される、扮装したたけし。その隣には、多色かつ原色で塗りたくられた高級外車。大きな筆でペンキを叩きつける、例の無表情をした、たけし。
一方のさんまたちはわかりやすく「まさか……?」と動揺し、「あの車は一体……?」と、事態の把握に向かう。
しかし、というか、やはりというか、たけしが乱暴に叩き続けている車は、さんまのものではなく岡村のものと判明。固まる岡村の周りで、なあんだって顔で笑う面々。
そしてカメラがずれ、もう一台のカラフルな外車が映る。岡村の車はスタイリッシュなたたずまいだったが、こちらの車はゴツゴツと角ばった印象。ワイプのさんまの顔が大きくなる。「やられた」という表情のお手本が画面いっぱいになる。
とにかくスタジオへ、と駆け出すさんま。なんて無意味なダッシュ。それでこそテレビだ。ここで、きれいに、さんまダッシュ映像だけにならなかったのも、生放送らしくてよかった。
照明が十分でない階段を駆け上がるさんまの横で、たぶん、今は映っちゃだめだったであろう半裸の若手芸人クールポコが、仕事をしてない顔のまま映りこむ。それに目もくれず、仕事の顔で、ただ、たけしのいるスタジオを目指すさんま。
一転、真っ白なスタジオ。上部カメラからの映像。駆けていくさんま。中央には、上下に重ねられた、鮮やかな外車。上が岡村車、下がさんま車。たけしは、さんま車に、ぞんざいにペンキを重ねている。
なにやっとんねん、という当たり前のくだり。周りの人たちが、案外はやく到着。
真っ白なスタジオはとても静かだった。とてもぎこちない空気のなか、なぜだか、みんなでペンキをぶっかけ合う、というシーンが始まる。もう、たけしもさんまも関係ないのだ、という筋書き。意味などない。ペンキをぶっかけ合う、ということだけに意味がある空間。
ところで、なぜ、あの場面はあんなにぎこちなかったんだろう。今だから思うんだけど、それはたぶん、あの場に、たけしとさんまがいたからじゃないか。それで終わるわけがない、という予感のせいだったんじゃないか。ぎこちなさの原因には不気味さがあったんじゃないか。もしも、たけしとさんまだけの時間がもう少しあったなら、また、ちがっていたかもしれない。もっと大変なことになっていたかもしれない。
さておき、ペンキまみれの大人たちのなかから、ペンキまみれのたけしが飛び出す。またしてもあの無表情。そしてたけしがさんまの車に乗り込む。
ヤバイヤバイ、あかんあかん、テレビでよく聞くガヤは、このあと、いつも以上の重みを発揮する。
たけしがさんま車を前進させる。とても大胆な前進だ。上の岡村車が落ちそうになる。危ない。何が危ないって、たけしが車に乗っていることが危ない。このままだと引き際がなくなることを、みんながわかっているから、危ない。みんな、スリルを求めている。でもみんな、心から安全を願っている。
前進後進を何度か繰り返す。岡村車は落ちない。すこし安心感が戻る。たけしは、岡村車を慮らない前進をする。岡村車はななめになる。大落下はなかった。
落ちそうになっている岡村車の映像より、車に乗ったままのたけしの映像のほうが、100倍恐怖をかきたてるのが、なお怖い。
これはだめだなー、やっちゃいけないことが起きてるなー、笑えるか笑えないかぎりぎりのことが起こっているなー、という感触。ただただ、その場で起きうる限りの、テレビで放送できるギッリギリの、すごいことが起こっていて、それを私は1人で見ていた。
逃げまどう芸能人、ハンドルを切るたけし。あのときのたけしの脈拍って、どうなんだろう。頭の中は、きっととても冷めているんだろう、という気はする。
車の正面に、ペンキまみれの今田。轢かれた。次の映像で、私は、まず、今田の足がもげていないか、反射的に確認していた。もげてはいなかった。
そこから先はあまり覚えていない。なんやかやあって、CM。たしか、きちんと落ちていたと思う。
そしてその後、公園の遊具みたいな色をした、ペンキまみれの今田が、いつもどおりの司会進行を行い、そこへペンキまみれのさんまが遅れて参加し、ぎこちなかった空気があっというまにバラエティに戻っていく様子に、私は感心した。
今年の27時間テレビは見ていてよかった、とは思わないけれど、今年の27時間を見のがさなかったのはよかった、とは思う。
それはおいといて、やっぱりMVPは今田だな、と、今改めて。さんまとたけしがすごいのは、もういまさらだし、あたりまえのことなので、がんばったで賞は、今田にあげてください。
なんだか、あんまりさんまのことを書けなかったんだけど、それは、私がいまいちさんまのことを掴みかねているからだと思う。かれこれ10年くらい、さんまのおもしろさについて、掴みかねている。別に掴む必要も掴みたい欲求も、他のおもしろさなら掴めているわけでもないのだけれど。なんにせよ、お笑いって、おもしろい。